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東京高等裁判所 昭和58年(ネオ)154号 決定

上告人 亡甲野太郎訴訟承継人 甲野春子

被上告人 甲野松夫

主文

本件上告を却下する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告は原裁判所に上告状を提出し、且つ上告状又は上告理由書に最高裁判所規則(民事訴訟手続規則)の定める方式に従つて上告理由を記載することを要し、上告人においてこれに違背するときは、原裁判所は上告を却下しなければならない(民訴法三九八条、三九九条)。

ところで、右の上告理由の記載方式に関し、民事訴訟手続規則四六条は、民訴法三九四条の法令違背を上告理由とする場合につき、当該の「法令の条項及び内容」とこれに「違背する事由」を、又同規則四七条は民訴法三九五条各号該当を上告理由とする場合につき、その「条項」及び「これに該当する事実」をそれぞれ明記することを要すると定めているが、これらの規定の趣旨は、単に条文の掲記又は抽象的文言の記載を以ては足りず、原判決の如何なる点が、どういう理由によつて、どの上告理由に該当するのか、その具体的根拠を条項と併記して明示することを要求しているものと解すべきである。

しかるに、本件上告においては、上告代理人が法定の期間内に提出した上告理由書には、「上告人の本件土地につき取得時効による所有権取得の主張は証明十分である。これを排斥した控訴裁判所は法令の違反である。」との記載があるのみで、法令の掲記はもとより、上告人の取得時効の抗弁を排斥した当審判決の認定判断のどの部分がどういう理由によつて法令違背の誤りをおかしているのかその具体的根拠は全く示されていない。又当裁判所の昭和五八年七月一九日付の補正決定に基づき上告代理人が所定の期間内に提出した「上告理由補正」と題する書面にも「上告人の上告理由は法第三九五条第一項第六号に該当する。」とあるのみで、そもそも同書面は、さきの上告理由書記載のそれと異なる上告理由を追加したものか、あるいはこれを変更したものか全く不明である許りでなく、右補正書の記載によつて上告理由書に記載の上告理由が補完されたものとは認め難く、又右補正書じたい民訴法三九五条一項六号に該当する事実を明示していない。

以上のとおり、民事訴訟手続規則に照らし、本件の上告理由書及び補正書ともに上告理由の記載として全く不備であるといわざるを得ず、従つて本件上告は結局のところ却下を免れない。

よつて本件上告を却下することとし、民訴法三九九条、九五条、八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 田尾桃二 内田恒久 藤浦照生)

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